【古事記】（原文・読み下し文・現代語訳）中巻・その肆
開化天皇
若倭根子日子大毘毘命 坐春日之伊邪河宮治天下也 此天皇娶旦波之大縣主 名由碁理之女竹野比賣 生御子比古由牟須美命【一柱 此王名以音】又娶庶母伊迦色許賣命 生御子御眞木入日子印惠命【印惠二字以音】次御眞津比賣命【二柱】又娶丸邇臣之祖日子國意祁都命之妹意祁都比賣命【意祁都三字以音】生御子日子坐王【一柱】又娶葛城之垂見宿禰之女鸇比賣 生御子建豐波豆羅和氣【一柱 自波下五字以音】此天皇之御子等幷五柱【男王四女王一】
若倭根子日子大毘毘命春日之伊邪河宮に坐し天下治む也此の天皇旦波之大県主名由碁理之女竹野比売娶し御子比古由牟須美命【此の王の名音以てす】生れまし【一柱】又庶母伊迦色許売命娶し生れまし御子御真木入日子印恵命【印恵二字音以てす】次御真津比売命【二柱】又丸邇臣之祖日子国意祁都命之妹意祁都比売命娶し【意祁都三字音以てす】生れまし御子日子坐王【一柱】又葛城之垂見宿祢之女鸇比売娶し生れまし御子建豊波豆羅和気【一柱波自り下五字音以てす】此の天皇之御子等并せ五柱【男王四女王一】
若倭根子日子大毘毘命は、春日の伊邪河宮にいらっしゃり、天下を治められました。
この天皇は、旦波の大県主、名は由碁理の息女、竹野比売を娶り、御子比古由牟須美命を生みなされました。
一柱です。
また、継母(父の後妻)、伊迦賀色許売命を娶り、御子、御真木入日子印恵命、次に御真津比売命が生まれました。
二柱です。
また、丸邇臣の先祖、日子国意祁都命の妹、意祁都比売命を娶り、御子、日子坐王が生まれました。
一柱です。
また、葛城の垂見宿祢の息女、鸇比売を娶り、御子、建豊波豆羅和気が生まれました。
一柱です。
この天皇の御子たちは、併せて五柱です。
男子王四柱、女子王一柱
故御眞木入日子印惠命者治天下也 其兄比古由牟須美王之子 大筒木垂根王 次讚岐垂根王【二王 讚岐二字以音】此二王之女五柱坐也 次日子坐王娶山代之荏名津比賣亦名苅幡戸辨【此一字以音】 生子大俣王次小俣王 次志夫美宿禰王【三柱】又娶春日建國勝戸賣之女名沙本之大闇見戸賣 生子沙本毘古王 次袁邪本王 次沙本毘賣命亦名佐波遲比賣【此沙本毘賣命者爲伊久米天皇之后 自沙本毘古以下三王名皆以音】
故御真木入日子印恵命者天下治む也其の兄比古由牟須美王之子大筒木垂根王次讃岐垂根王【二王讃岐の二字音以てす】此の二王之女五柱坐す也次日子坐王山代之荏名津比売亦名苅幡戸弁娶し【此の一字音以てす】生れまし子大俣王次小俣王次志夫美宿祢王【三柱】又春日の建国勝戸売之女名沙本之大闇見戸売娶し生れまし子沙本毘古王次袁邪本王次沙本毘売命亦名佐波遅比売【此の沙本毘売命者伊久米の天皇之后に為りたまふ沙本毘古自り以下三王の名皆音以てす】
そして、御真木入日子印恵の命は天下を治められました。
この兄、比古由牟須美王の御子は、大筒木垂根王、次に讃岐垂根王の二王です。
この二柱の王の息女は五柱います。
次に、日子坐王、山代の荏名津比売、またの名は苅幡戸弁を娶り、皇子、大俣王、次に小俣王、次に志夫美宿祢王を生みなされました。
三柱です。
また、春日の建国勝戸売の息女、名は沙本の大闇見戸売を娶り、子に沙本毘古王、次に袁邪本王、 次に沙本毘売命、またの名は佐波遅比売
この沙本毘売命は、伊久米天皇の皇后になられました。
次室毘古王【四柱】又娶近淡海之御上祝以伊都玖【此三字以音】天之御影神之女息長水依比賣 生子丹波比古多多須美知能宇斯王【此王名以音】次水之穗眞若王 次神大根王亦名八瓜入日子王 次水穗五百依比賣 次御井津比賣【五柱】又娶其母弟 袁祁都比賣命 生子山代之大筒木眞若王 次比古意須王 次伊理泥王【三柱 此二王名以音】凡日子坐王之子幷十一王
次室毘古王【四柱】又近淡海之御上祝以て伊都玖【此の三字音以てす】天之御影神之女息長の水依比売娶し生れまし子丹波の比古多多須美知能宇斯王【此の王の名音以てす】次水之穂真若王次神大根王亦名八爪入日子王次水穂五百依比売次御井津比売【五柱】又其の母の弟袁祁都比売命娶し生れまし子山代之大筒木真若王次比古意須王次伊理泥王【三柱此の二王の名音以てす】凡日子坐王之子并十一王
次に室毘古王が生まれました。【四柱です】
また、近江の御上祝が斎する(三上山＝滋賀県野洲市にある山に祀られている祭神の)、天之御影神の息女、息長水依比売を娶り、子丹波の比古多多須美知能宇斯王、次に水穂真若王、次に神大根王、またの名は八爪入日子王、次に水穂五百依比売、次に御井津比売が生まれました。【五柱です】
また、その母の妹、袁祁都比売命を娶り、子山代の大筒木真若王、次に比古意須王、次に伊理泥王が生まれました。【三柱】
全体で日子坐王の御子は、併せて十一人の王です。
故兄大俣王之子 曙立王 次菟上王【二柱】此曙立王者【伊勢之品遲部君伊勢之佐那造之祖】菟上王者【比賣陀君之祖】次小俣王者【當麻勾君之祖】次志夫美宿禰王者【佐佐君之祖也】次沙本毘古王者【日下部連甲斐國造之祖】次袁邪本王者【葛野之別近淡海蚊野之別祖也】次室毘古王者【若狹之耳別之祖】其美知能宇志王娶丹波之河上之摩須郎女 生子比婆須比賣命 次眞砥野比賣命 次弟比賣命 次朝廷別王【四柱 此朝廷別王者三川之穗別之祖】
故兄大俣王之子曙立王菟上王【二柱】此の曙立王者【伊勢之品遅部君伊勢之佐那造之祖】菟上王者【比売陀君之祖】次小俣王者【当麻勾君之祖】次志夫美宿祢王者【佐佐君之祖也】次沙本毘古王者【日下部連甲斐国造之祖】次袁邪本王者【葛野之別近淡海の蚊野之別の祖也】次室毘古王者【若狭之耳別之祖】其の美知能宇志王丹波之河上之摩須郎女娶し生れまし子比婆須比売命次真砥野比売命次弟比売命次朝廷別王【四柱此の朝廷別王者三川之穂別之祖】
さて、兄の大俣王の御子には、曙立王、次に菟上王の二柱がいます。
この曙立王は、伊勢の品遅部君、伊勢の佐那造の先祖です。
菟上王は、比売陀君の先祖です。
次に小俣王は、当麻勾君の先祖です。
次に志夫美宿祢王は、佐佐君の先祖です。
次に沙本毘古王は、日下部連、甲斐国造の先祖です。
次に袁邪本王は、葛野之別、近淡海の蚊野之別の先祖です。
次に室毘古王は、若狭の耳別の先祖です。
その美知能宇志王、丹波の川のほとりの摩須郎女を娶り、御子の比婆須比売命、次に真砥野比売命、次に弟比売命、次に朝廷別王が生まれました。
四柱です。
この朝廷別王は三河の穂別の先祖です。
此美知能宇斯王之弟水穗眞若王者【近淡海之安直之祖】次神大根王者【三野國之本巢國造長幡部連之祖】次山代之大筒木眞若王娶同母弟伊理泥王之女丹波能阿治佐波毘賣 生子迦邇米雷王【迦邇米三字以音】此王娶丹波之遠津臣之女名高材比賣 生子息長宿禰王 此王娶葛城之高額比賣 生子息長帶比賣命 次虛空津比賣命 次息長日子王【三柱 此王者吉備品遲君針間阿宗君之祖】
此の美知能宇斯王之弟水穂真若王者【近淡海之安直之祖】次神大根王者【三野国之本巣国造長幡部連之祖】次山代之大筒木真若王の同母弟伊理泥王之女丹波能阿治佐波毘売娶し生れまし子迦邇米雷王【迦邇米三字音以てす】此の王丹波之遠津臣之女名高材比売娶し生れまし子息長宿祢王此の王葛城之高額比売娶し生れまし子息長帯比売命次虚空津比売命次息長日子王【三柱此の王者吉備の品遅君針間の阿宗君之祖】
この美知能宇斯王の弟、水穂真若王は、近江の安直の先祖です。
次に神大根王は、美濃の国の本巣国造、長幡部連の先祖です。
次に、山代之大筒木真若王の同腹の弟、伊理泥王の息女、丹波能阿治佐波毘売を娶り、御子の迦邇米雷王が生まれました。
この王、丹波の遠津臣の息女、名は高材比売を娶り、御子の息長宿祢王が生まれました。
この王は、葛城の高額比売を娶り、御子の息長帯比売命、次に虚空津比売命、 次に息長日子王の三柱が生まれました。
この王は吉備の品遅君、針間の阿宗の君の先祖です。
又息長宿禰王娶河俣稻依毘賣 生子大多牟坂王【多牟二字以音 此者多遲摩國造之祖也】上所謂建豐波豆羅和氣王者【道守臣忍海部造御名部造稻羽忍海部丹波之竹野別依網之阿毘古等之祖也】天皇御年陸拾參歲 御陵在伊邪河之坂上也
又息長宿祢王河俣稲依毘売娶し生れまし子大多牟坂王【多牟二字音以てす此者多遅摩の国造之祖也】上謂し所建豊波豆羅和気王者【道守臣忍海部造御名部造稲羽の忍海部丹波之竹野別依網之阿毘古等之祖也】天皇御年陸拾参歳御陵伊邪河之坂上に在り也
また、息長宿祢王の河俣稲依毘売を娶り、御子の大多牟坂王が生まれました。
この王は但馬の国造の先祖です。
上で述べた、建豊波豆羅和気王は、道守臣、忍海部造、御名部造、稲羽の忍海部、丹波の竹野別、依網の阿毘古らの先祖です。
天皇は御年六十三歳にて、御陵(墓所)は伊邪河(率川)の坂の上にあります。
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