【神祇令】~国家儀式としての年中行事~

大和王権は、国家的儀式をり行うために、大宝律令たいほうりつりょうという法律を創りました。

その後、それを受け継ぎ創られた養老律令ようろうりつりょうでは、その国家的儀式の詳細を取り決めました。

その養老律令ようろうりつりょう第三の「神祇令じんぎりょう」では、国家的儀式としての年中行事として、下記のように規定しました。

神祇令 原文 現代語訳

第一 天神地祇條 凡天神地祇者 神祇官皆依常典祭之
およそ天神地祇てんじんちぎ(天の神・地の神)は、神祇官じんぎかんは皆、常にのり(規則)にりてこれを祭ること。

第二 仲春條 仲春【祈年祭】
第三 季春條 季春【鎮花祭】
第四 孟夏條 孟夏【神衣祭/大忌祭/三枝祭/風神祭】
第五 季夏條 季夏【月次祭/鎮火祭/道饗祭】
第六 孟秋條 孟秋【大忌祭/風神祭】
第七 季秋條 季秋【神衣祭/神嘗祭】
第八 仲冬條 仲冬【上卯相嘗祭/寅日鎮魂祭/下卯大嘗祭】
第九 季冬條 季冬【月次祭/鎮火祭/道饗祭】

季語陰暦月祭の名前
仲春なかのはる2月祈年としごい
季春すえのはる3月鎮花はなしずめ
孟夏はじめのなつ4月神衣かんみそ大忌おおいみ三枝さいくさ風神かぜのかみ
季夏すえのなつ6月月次つきなみ鎮火ほしずめ道饗みちあえ
孟秋はじめのあき7月大忌おおいみ風神かぜのかみ
季秋すえのあき9月神衣かんみそ神嘗かんなめ
仲冬なかのふゆ11月相嘗あいなめ(一回目のの日)
鎮魂みたましずめ(とらの日)
大嘗おおなめ(月の最後のの日)
季冬すえのふゆ12月月次つきなみ鎮火ほしずめ道饗みちあえ

前件諸祭 供神調度及禮儀齋日皆依別式 其祈年月次祭者百官集神祇官 中臣宣祝詞 忌部班幣帛

前のくだりもろもろの祭り、神にきょうする調度及び礼儀と齋日いみびは皆、別に定めた式にりて、祈年としごい月次つきなみの祭りには、百官(諸々の役人)は神祇官じんぎかんという役所に集まり中臣なかとみ氏(後の藤原氏)が祝詞のりとのらす(おっしゃる)。忌部いんべ氏が幣帛へいはく(神に奉献ほうけんするもの)をわかつ(分け与える)

第十 即位條 凡天皇即位 惣祭天神地祇 散齋一月 致齋三日 其大幣者 三月之內 令修理訖

即位の条 およそ天皇の即位は、 すべ天神地祇てんじんちぎを祭る散齋さんさい(最初のみの儀式)一ヶ月、致齋ちさい(心身を清めること)3日、大幣おおみてくら(神に供える幣物へいもつ・供物)3ヶ月の内に修理(造り)おえる(終える)をりょうす(命ず)

十一 散齋條 凡散齋之內諸司理事如舊 不得弔喪問病食霖完 亦不判刑殺不決罰罪人不作音樂不預穢惡之事 致齋唯為祀事得行 自余悉斷 其致齋前後 兼為散齋

およそ散斎さんさい(最初のみの儀式)の内は、諸司しょじ(多くの役所)の事務はもとごとし(いつもと同じように)。
とむらうこと(葬式をすること)や、病人を問う(訪問すること)たり、肉を食べたり不得えず(してはならない)。
また刑殺けいさつばん(裁判)してはならず、罪人の罰を決しては(決めては)ならず、音楽を作ってはならず、穢悪けあくの事(けがれていて、罪深いこと)に関わらないこと。
致斎ちさいは、ただ祭祀さいしのことを行うを得る。
自余じよそれ以外ことごとく断つ。
致斎ちさいの前後は、散斎と為すを兼ねる(同じように過ごす)。

十二 月齋條 凡一月齋為大祀 三日齋為中祀 一日齋為小祀

およそ1ヶ月のさい(ものいみ)を大祀たいし(祭りの前の1か月間)とする。
3日のさい中祀ちゅうし(祭りの前3日間を潔斎けっさい(心身を清めること)して行う祭祀さいし)とする。
1日のさい小祀しょうし(神事の前1日間を斎戒さいかい(ものいみのために戒律を守ること)して行う祭祀)とする。

十三 踐祚條 凡踐祚之日 中臣奏天神之壽詞 忌部上神璽之鏡釼

践祚せんその日(皇嗣こうしが天皇の地位をうけつぐ日)には、中臣なかとみあまつ神の寿詞よごと(祝いの気持ちを述べた言葉や文章)をそうする(天皇に申しあげる)。
忌部いんべ神璽しんじ(三種の神器)の鏡・つるぎあぐる(たてまつる・献上する)。

十四 大嘗 凡大嘗者每世一年同司行事 以外每年所司行事

大嘗おおなめは、天皇一世ごとに1年、同じ国司こくし事を行う。
それ以外は、毎年所司しょし(祭事を預かる在京諸司しょし神祇じんぎ官)事を行う。

十五 祭祀條 凡祭祀 所司預申官 官散齋日平旦 頒告諸司

祭祀さいしは、所司しょし神祇じんぎ官)太政官が申し預かる(申し受く)。
太政官は、散斎さんさいの日平旦へいたん(寅の刻=午前4時頃)に、関係諸司しょし頒告りょうこく(くまなく通知)する。

十六 供祭祀條 凡供祭祀幣帛飲食及果實之屬所司長官親自檢校 必令精細勿使穢雜

祭祀に供する幣帛、飲食、及び、果実の類は、所司の長官がみずから検校けんぎょう(調べ正す)する。
必ず精細せいさい(念入り)にりょう(指示)し、穢雑けざつ(汚れた罪深いもの)使うなかれ。

十七 常祀條 凡常祀之外 須向諸社供幣帛者 皆取五位以上ト食者充 【唯伊勢神宮 常祀亦同】

 

常のまつりの他、諸社へ幣帛へいはくを供すに向いてもちいるは、皆官位五位以上のうら(亀卜=占い)をものてる。【ただ伊勢神宮は、常のまつりにおいてまた同じ】

十八 大祓條 凡六月十二月晦日大祓者 中臣上御祓麻 東西文部上祓刀讀祓詞 訖百官男女聚集祓所中臣宣祓詞ト部為解除

6月・12月のみそか日、大祓おおはらえ中臣なかとみ御祓麻おおぬさぐる(たてまつる)。
東西やまとかわぢ文部ふみとべ西文氏かわぢのふみうじ)、はらえたちぐり(たてまつり)、祓詞はらえのことばむ(読む)。
おわり(終わり)に、百官ひゃっかん(諸々の役人)の男女は、祓所はらえど聚集しゅうしゅう(集まり)し、中臣なかとみ祓詞はらえのことばり(述べ)、卜部うらべ解除はらえをする。

十九 諸國條 凡諸國須大祓者 每郡出刀一口 皮一張 鍬一口 及雜物等 戶別麻一條其國造出馬一疋

諸国で大祓おおはらえをこおりごとたち1口・皮1り・鍬くわ1口及び雑物等、戸別に麻1条(たば)、国造くにのみやつこは馬1ひき(匹)[を供進ぐしんする]。

二十 神戶條 凡神戶調庸及田租者 並充造神宮及供神調度其稅者一准義倉 皆國司檢校 申送所司

神戸かんべ摂津国せっつのくに八部郡やたべぐん神戸郷かんべごう)の調庸ちょうよう(みつぎものと労役)及び田租でんそ(田地に課された租税)神宮じんぐう造作ぞうさく(建設)にて、並びに、神に供する調度に及ぶの税は一准いちじゅん(まちがいなく)義倉ぎそう(穀物を備蓄する倉庫)に(納めよ)。
(これらは)皆、国司が検校けんぎょう(調べ正す)して、所司に申し送る。

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Posted by 風社